フィレンツェレポート「阿部純ヴァイオリン工房」阿部 純 様のご紹介(イタリアフィレンツェ)
弦楽器製作の本場であるイタリアにて、弦楽器製作者や音楽専門学校の御関係者の方々に弦奏のデモンストレーションを行いました。その中で、フィレンツェに工房を構える「阿部純ヴァイオリン工房」阿部 純 様を訪問させて頂いた際の内容をご紹介させて頂きます。
(☆このイタリアでのデモンストレーションは、伊達 知見 様(NPO法人日本アマチュア音楽家支援協会・理事長/ミューザ川崎シンフォニーホール・元館長)の多大な御協力により実現しました)
【訪問先】 阿部純ヴァイオリン工房(Firenze ltalia)/ JUN ABE LIUTAIO弦楽製作
■工房のWebーSite :http://abejun-firenze.wixsite.com/liutaio
■訪問者 伊達知見(NPO法人日本アマチュア音楽家支援協会)
【写真1】阿部さん製作のヴァイオリンに弦奏を取り付けて試聴しているところ
【阿部純さんよりコメント】
ヴァイオリン製作者としては、たいへん興味があります。
■(1)弾き込み
ヴァイオリンは弾き込んで初めて楽器としての音ができます。完成品を依頼者が弾き始めると10分、20分の短い時間でも驚くほど音が変わってきます。音がでないところを(演奏者の感覚的なことも含めて)集中的に弾くことで鳴ってくるということです。ヴァイオリンは弾かないと良くならない楽器なのです。
ヴァイオリン製作者はできれば、こうした弾き込みに十分時間をかけたいそうですが、現実には時間がなくそこまではできません。知り合いのヴァイオリニストに2、3日弾いてもらうこともあるそうです。一人のヴァイオリン製作者は人にもよりますが、一年間に製作できるのは数本だそうです。
■(2)ヴァイオリンの製作過程における弦奏使用の可能性
ヴァイオリンは表板(モミの木)、裏板(カエデの木)、横板(カエデの木)、ネック(カエデの木)で構成されます。20年以上乾燥させた材料が多い。
とくに、裏板は組み立てる前に内側を削ります。厚さ2.5ミリくらいを目標に削り込みます。中央部分は強度のこともあって端よりも厚くします。どこをどのように削ればよいかを板のあちらこちらを叩き、裏板全体の響きを調整していく大切な工程になります。響きを聴く格好はレストランのボーイがお盆を片手にかざしている光景が連想できます(ヴァイオリンの場合は親指と人差し指の二本)。
この格好で耳を板に近づけて響きを聴きながら調整します。高度な技術と経験が求められる、とても繊細微妙な作業です。阿部さんが製作中の自慢の裏板で体験させてもらいました。上下左右の端や裏板の中央を、中指を曲げた状態で軽く叩くと、とても奥深い響きがありました。
【写真2】製作中のヴィオラに弦奏をつけて音をチェックしているところ
この裏板に阿部さんが弦奏を当ててみました。置いたところによって違った感じの音がします。自慢の裏板だけあって、弦奏から流れるヴァイオリンの演奏音の美しい響きを聴くことができました。
いままで勘(長い修行で培われた技術)でやっていた工程の中にいわば機械的に測定しながら、削り具合と音色の関連を探ることになるので、この「弦奏」を使った新たな技術の確立が必要になるのではないか。
■(3)力木(ベースバー)の設置
ヴァイオリンの内部に強度を保つために設置します。この位置を決めるときには響きへの影響を考えながらの微妙な調整になります。設置する位置を探ることはたいへん重要な作業です。この工程に弦奏が使えそうです。これは日本の琴の件と同じことと思いました。